PTSD(心的外傷後ストレス障害)は6歳までの子供とそれ以後成人までの年齢の場合と少し診断基準が違います。ここでは6歳以後の場合を中心に説明します。
PTSDは「トラウマ」という言葉で世間に広まった経緯がありますが、そもそもトラウマと言うのは、自然災害、戦争、事故、犯罪、虐待などに巻き込まれて、実際にまたは危うく死にかける、深刻な負傷を負う、性的暴力など精神的な衝撃を受けることを言います。また本人が実際に経験しなくても他人、または身近な近親者・友人に起こった出来事を直接目撃したり、耳にした場合も含まれます。その結果、その記憶や場面が繰り返し頭に浮かんで苦しむ(フラッシュバック)、また繰り返し見る苦痛な悪夢、トラウマを思い出させる刺激となるようなきっかけ(トリガー)による心理的苦痛、またそれによる生理的な反応や苦痛が主な症状です。
もう少し具体的に説明すると、
1)侵入症状
・心的外傷となる出来事のフラッシュバック
・悪夢
・心的外傷を思い起こさせる事態に対する心理的・生理的苦痛(動悸や発汗)
2)回避症状
・心的外傷を思い起こさせる出来事を極力避けようとしたり、思い出させる人物・事物・状況・会話など回避する
3)陰性気分
・自分自身を責めたり、他者や世界への否定的な感情(「私が悪い」「誰も信用できない」「世の中は危険だ」等)
・興味や関心が失われ、陽性の感情が体験できなくなる
・他者から孤立し、集団活動に参加しなくなる
4)過覚醒
・ちょっとした刺激にもビクッとしてしたり驚愕反応を起こす
・イライラや過剰な警戒心が続く
・無謀で自己破壊的な行動が見られる
・集中困難になり、睡眠障害が起きる
などの症状が1か月以上続き、日常生活に支障が生じてきた場合、PTSDと診断されます。
なおその症状が1か月に満たない場合はASD(急性ストレス障害)とされます。
PTSDにおけるトラウマは上にも挙げた通り、自然災害や、戦争、犯罪、等の1回性のトラウマ(シングル・トラウマ)であることが多いでしょう。しかしそういう1回性のトラウマではなく、たとえばいじめ、虐待、ハラスメントに見られるような心を傷つける出来事に「長期に渡って」に「何度も繰返され」て、しかもそれが隠された状況で起きているような場合、複雑性トラウマと呼ばれ、その影響は大きなものがあるのです。特にこういう「長期性」「頻回性」「潜伏性」の複雑性トラウマに幼児期にさらされ続けた結果、その後の人格形成や対人関係に大きな影響を及ぼし続けると言われています。
機能不全家庭における複雑性トラウマにさらされた子供の場合、おおむねその原因を自分自身に結び付けて理解し「自分がダメな子だから」と自責感と罪悪感を持ち続けてしまいます。それが人格形成のバックボーンとなった場合、大人になっても人間関係の上で自信が持てなかったり、常に自分を責めてみたり、あるいはその裏返しで怒りで対人関係を破壊したり、その罪悪感の痛み止めとしてのアルコールをはじめとする依存症へ進んでしまうこともあるのです。いわゆるアダルトチルドレンと呼ばれる状態ですが、それは疾患ではありませんが、幼少期の様々な経験に大人になっても振り回されてしまう状態であり大変苦しいものです。
また大人の対人関係の不適応の背景に、小・中学校でのいじめの体験や虐待の体験を語られる方が多くいらっしゃいます。
これも長い年月が経っても、過去の亡霊に苦しまれている状態だとも言えます。なんとかその亡霊の姿を見定めてきちんと供養して、解き放つ取り組みをされることがこころの安定には大切な事だと思っています。
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